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民事執行・保全法講義6~既判力の時的限界

さて、本日は民訴でもおなじみの、既判力の時的限界の議論です。

前回の講義についてはこちら→民事執行・保全法講義5~請求異議訴訟総論【司法試験も必須】

民事執行法
(請求異議の訴え)
第三十五条  債務名義(第二十二条第二号、第三号の二又は第四号に掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。
2  確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。
3  第三十三条第二項及び前条第二項の規定は、第一項の訴えについて準用する。

この民執35条2項が、既判力の時的限界を示す条文です。
上告審は法律審であるため、事実審の口頭弁論終結時が既判力の時的限界ということになります。

すなわち、事実審の口頭弁論が平成25年10月1日に終結し、「AはBに金100万円を支払え」との判決が出たとします。
Bは、事実審の口頭弁論終結前である平成25年9月1日に弁済したから、請求権は消滅したとの主張を、請求異議の訴えでなすことができません(もちろん他の訴訟でも主張できません)。このことを、既判力により遮断されるといいます。

しかし、事実審の口頭弁論終結後である平成26年1月7日に弁済した旨の主張は、後訴である請求異議の訴えでなすことができます。

以下、既判力で遮断されるか争いのあるものを述べます。

1、遮断されるもの
①無効の主張
 当然遮断されます。前訴で錯誤無効を主張できたなら、それを後訴で主張することはできなくなります。
②取消権
 遮断されるというのが判例です。取消権は形成権なので、遮断後の事由とも思えるのですが、取消事由より重大な無効が遮断されるのだから、当然だという論拠と、取消権は請求権自体に付着する瑕疵なので口頭弁論終結前から存在していたというのが論拠です。
③解除権
 遮断されるというのが伝統的通説です。その論拠は取消権と同様です。

2、遮断されないもの
①相殺権
 遮断されません。前訴から存在していた反対債権を、後訴で相殺に供することができます。
相殺は債権に付着するものではないし、相殺の主張は実質敗訴なので、前訴で主張する期待可能性もないことが論拠です。
②建物買取請求権
 遮断されません。建物買取請求権は、建物収去土地明渡請求権に内在する瑕疵ではないからです。
 なお、建物買取請求権は、形成権であり、行使すると売買契約が成立することになるので、建物収去土地明渡請求は、建物の引渡請求として一部認容となります。
③手形の白地補充権の行使
 請求異議の問題ではないですが扱います。
 白地手形の所持人が白地を補充しなかったため、手形義務者に対する支払請求訴訟で敗訴したのちに、所持人はその後に白地手形補充権を行使して手形金を請求することは、特段の事情がない限りできません。前訴で補充できたからです。

3、限定承認
①AがBに無留保の支払請求をし、確定した後、Bが限定承認を主張して請求異議の訴えを提起する場合
→Bの限定承認の主張は遮断されない(判例)
 限定承認は債権の存否の問題ではなく執行段階で問題になることから

②相続財産の限度で支払えと限定した給付判決が出た後に、その判決基準時前に存在した民法921条の限定承認無効事由を主張すること
→遮断されます。
 前訴で主張できたこと、限定承認が認められた場合は主文にそのことが明示されるから、限定承認の存在及び効力についての前訴の判断には、既判力に準ずる効力があることがその理由です。

このように民事執行法の理解には、民訴の復習も有効です。
民訴判例を学習したい方はこちらの講座も参考にして下さい。
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※ご連絡
 以前書いた、おとり捜査で考えたいこと 加筆しました。
 直接の被害者がいないことは、相当性判断のほかに必要性判断にも影響します。


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民事執行・保全法講義5~請求異議訴訟総論【司法試験も必須】

今日は、請求異議訴訟について述べます。

前回の講義についてはこちら→民事執行・保全法講義4~執行証書に関わる論点
また、民事執行ではないが、前回の記事はこちら→共謀共同正犯の成立要件

請求異議の訴えは、予備試験のみならず、司法試験受験生も知っておいたほうがよいところです

まず、請求異議の訴えは、実体法上請求権がないのに債務名義がある場合に、その執行力を排除するために認められます(民執35Ⅰ)。
実体法上請求権がないのに、債務名義が存在する場合、強制執行ができますが(不当執行の一種)、
それを不許とするために提起するのが請求異議の訴えです。

典型的なのが、「100万円の売買代金を支払え」との確定判決(債務名義)があるが、裁判の後、100万円の弁済がなされた場合。
債務名義がある以上強制執行がなされる場合がありますが、それに対し、請求異議訴訟を起こして、その中で弁済を主張していくというような場合です。

また、執行証書等、裁判以外で成立した債務名義についても認められます(民事35Ⅰ後)。
実務上は、執行証書関係の請求異議が多いです。

さらに、請求異議訴訟の訴えの性質は、理論的な問題になっています。

ここは、司法試験のテーマのいつかされるのではないかと、個人的には思っています。
給付訴訟、確認訴訟、形成訴訟という訴訟形態の違いを問えるからです


ここでは、形成訴訟説が多数説でありまして、
請求異議訴訟の認容判決の確定によって債務名義の執行力が排除される、と考えられております。

この立場からは、訴訟物は「形成権たる執行法上の異議権」となり、訴訟物の個数は債務名義の個数と一致します。
そして、実体法上の個々の異議事由は攻撃方法にすぎません

この辺りは、要件事実30講なんかにも、少しだけ載っています。

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但し、形成訴訟説からは、既判力は異議権にのみ生じます(民訴114条1項)。

とすれば、請求異議訴訟で敗訴しても、後で、請求権の不存在を理由に不当利得返還請求を提起できてしまうという批判があります。

この批判に対してどう答えますか?自分で少し考えてみて下さい。

ここは、既判力論で処理する、あるいは争点効、信義則等で解決していくのが筋でしょう。
司法試験のテーマにもなりえます。

大切なのは、学説を事前準備しておくのではなく、現場で考える力を養うことです
そこで、普段からこういう問題に出会ったら、自分の頭でどう書くかを考えてください。
それが本番で書く力に変わってきます。

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民事執行・保全法講義4~執行証書に関わる論点

民事執行・保全講義の4回目です。

前回の講義はこちら→民事執行・保全講義3~債務名義

今回は、執行証書に関わる論点です。若干細かいので、司法試験の方は、最後の④救済手続以外はスルーしてもよいです。
予備試験の方は、ざっと確認しておきましょう。

①代理関係
XがYに100万円を貸したとします。そして、これを執行証書にしたい。そこで、Xの代理人AとYが公証役場に行き、AがXの代理人と名乗らずに直接Xと名乗り(署名代理)、AとBを当事者とする執行証書が作成された。有効か。
→無効(判例)。公証人法32条、39条等に違反するから。

②額の一定性
 前回の講義で学んだとおり、執行証書には「額の一定性」が必要である(民執22⑤)

・執行証書上の表示と請求権の実体法的内容が違う
→債務名義としては有効であるが、請求異議の訴えを提起して実体法上の請求権どおりにできる。

・継続的取引から生じる債務で、時間の経過とともに債務額が変動するものについて執行証書を作成した場合は、額の上限を決めている場合でも金額の一定性を欠く(学説)

・執行証書の作成にあたり、遅延損害金を付加しても(どんどん遅延損害金が膨らんでいくことになる)、計算上は明確であるので、金額の一定性は認められる。

・分割弁済が予定されている債務につき執行証書を作成しても(額がどんどん減っていくことになるが)、額の一定性は認められる。
→弁済部分の執行があった場合、その部分について債務者は請求異議の訴えを提起することができる。

・保証人の事前求償権について、額は元本と利息、遅延損害金となるので、一定性は認められる。

・保証人の事後求償権についてあらかじめ作成した執行証書の有効性について。この点は争いがあるが(弁済額によって求償額が変わってしまうので)、求償の最大限が明示されていれば、執行文付与の際に債務者に弁済額を証明させれば額が明確になるとして、有効と解する(学説)。

③執行受諾の意思表示の有効性
・錯誤の適用(判例)、詐欺・強迫の適用(学説)あり
・表見代理規定の適用なし(判例)、訴訟行為だから取引上の表見法理は適用しない。

④救済手続
 執行証書が要件を満たしていない場合の救済手続は、執行文付与に対する異議(民執32条)と請求異議の訴え(民執35条1項)の2種類。
 記録によって容易に判断できる場合は執行文付与に対する異議、口頭弁論による審理が必要な場合は請求異議の訴えによる。

5回目の講義はこちら→民事執行・保全法講義5~請求異議訴訟総論【司法試験も必須】


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民事執行・保全法講義3~債務名義

民事執行・保全法講義の3回目です。

前回の講義はこちら→民事執行・保全法講義2~強制執行の種類

債務名義」とは、強制執行に適する請求権の存在及び範囲を証明する公正の証書で、執行力を与えられたもの をいいます。
確定した給付判決が代表的です。
強制執行は、この債務名義によって行われます(民執22条)。
そして、強制執行の実施には、「執行文の付された債務名義の正本」が必要です(民執25条)。
執行文は後でやりますが、裁判所書記官が債務名義が確かなことを確認した文くらいの意味だととりあえず思っておいて下さい。

債務名義の一覧は、民執22条各号にあります。

確定判決(1号)
 条文上の文言は、「判決」ですが、給付判決のみが債務名義となります。確認判決および形成判決は、強制執行を予定していないからです。また、給付判決でも執行力がない場合があります(例:彫刻家に芸術的な彫刻を作らせる義務)。

仮執行の宣言を付した判決(2号)
 判決確定前でも、仮執行宣言を付すことができます(民事訴訟法294条)。
仮執行宣言付の判決は、債務名義となります。

③抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る(3号)
 引渡命令(民執83条)が典型例なことを覚えておけば十分です。
 なお、3号の2の損害賠償命令は、犯罪被害者保護法26条の損害賠償命令です。
 3号の3は、平成25年改正で追加されましたが特に気にしなくてよいです(受験対策上は)。

④仮執行の宣言を付した支払督促(4号)
 督促手続はそのうち解説しようと思いますが、民事訴訟法382条以下にあります。
 4号の2は条文を一読しておけば十分。

執行証書(5号)
 予備試験の民事実務では重要でしょう。
金銭の一定の額の支払またはその他の代替物もしくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」について「公証人が作成した公正証書」である、「債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載」されているものをいいます。
 
 よくあるのが、お金を借りたときに、執行受諾文言(直ちに強制執行に服する旨の文言)を入れて公正証書を作るということです。
あくまで、金銭・その他の代替物・有価証券等に使えるものなので、
建物の明渡し債務等には使えないことに注意して下さい!!

⑥確定した執行判決のある外国裁判所の判決(6号)
 一読で十分、なお6号の2もある

⑦確定判決と同一の効力を有するもの(3号を除く)(7号)。
 和解調書などが代表例である。

 とくに大事なのが、①②⑤⑦なので、覚えておこう。
次回は債務名義に関する細かい論点を取扱います→民事執行・保全法講義4~執行証書に関わる論点


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民事執行・保全法講義2~強制執行の種類

民事執行講義の続きです。

今日も前フリで、次回から本番です。本日は強制執行の種類について解説します。

ちなみに前回の講義はこちら→民事執行・保全法講義1~民事執行法とは

まず、強制執行は大きく分けて、「金銭執行」と「非金銭執行」とに分けられます。
これらは各論で詳しくやっていきますので、今は大まかなイメージをつかんでおいて下さい。

1、金銭執行
(1)総論
金銭執行は、金銭支払を目的とする請求権を実現するための手続です。
例えば、売買代金支払請求権を実現するために、債務者の預金を差押える等が考えられます。

(2)種類
金銭執行は、さらに、「不動産執行」、「船舶執行」、「動産執行」、「債権執行等」に区別されます。
執行対象が何であるかによって分かれるというこです。尚、民事執行規則では自動車執行等も規定されていますが、細かいのでそこまではやらなくてよいでしょう。

不動産執行は、さらに「強制競売」と「強制管理」に分けられます。
強制競売は、文字通り、不動産を競売で売って、その売却代金から支払にあてる強制執行の方法です。
強制管理は、不動産から得られる法定果実(賃料)等から支払いにあてる強制執行の方法です。

2、非金銭執行
次に、非金銭執行は、金銭支払以外を目的とする請求権を実現するための手続です。
例えば、建物明渡請求権を実現するための執行が考えられます。

次回は、債務名義について解説しようと思います。→ 民事執行・保全法講義3~債務名義


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プロフィール

takeyama

Author:takeyama
知識じゃなくて、リーガルマインドと伝える力
を養成することを目標とする、
LEC東京リーガルマインド司法試験講師武山茂樹のブログです。

近年、司法試験業界でも、まやかしのような勉強法が流行しています。
しかし、起案とその吟味の繰り返しでしか実力はつきません。
私は、起案教育こそが司法試験に役立つとの信念のもと、実務でも通用する正統派の講義を目指します。

新橋虎ノ門法律事務所の共同代表として、弁護士もやっております。
司法試験受験生に役立つ情報を提供していきます。

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